ONOMICHI SHAREに集う
多彩なクリエイター
海辺に独特な存在感を放つレトロな建物がある。中はオシャレに内装が施され、大きな窓からは日差しがたっぷり降り注ぐ。目の前の海を眺めながら、仕事に打ち込む人たちがいた。尾道で人気のシェアオフィス「ONOMICHI SHARE」だ。
ONOMICHI SHAREは、もともとは市役所の書庫だった。そこをディスカバーリンクせとうちがシェアオフィスとして2015年にリニューアルした。コワーキングスペースとしても利用でき、市内外の事業者やフリーランスのクリエイターなど多様な人が出入りする場になっている。
つながりと交流を生む
「コンシェルジュ」
このONOMICHI SHAREの管理を任されているのが、京都から移住してきた後藤さんだ。なぜ移住者が?それは、偶然の出会いから生まれた。
大阪の印刷会社に勤めていた後藤さん。尾道出身の妻との結婚を機に、2016年に尾道に移住。移住前にONOMICHI SHAREで開催された「尾道自由大学」のイベントに参加したところ、スタッフと意気投合し「一緒に働かない?」と声をかけてもらったという。
そんな後藤さんの役割は、単に「場」を提供するだけにとどまらない。人と人をつなぎ、交流を生み、そこから新たな企画やプロジェクトが立ち上がる。そんなきっかけをつくっているのだ。その媒介になる役割を、「コンシェルジュ」は担えると後藤さんは考える。
単に受付業務をするだけではなく、例えば経営する店のロゴをつくれる人を探しているならデザイナーを紹介したり、尾道の人と利用者の間に、そんな“つながり”を生むコンシェルジュだ。
異文化を受け入れ、
発展してきた港町
妻の故郷とはいえ、見知らぬ土地での暮らしは順調なのか。後藤さんは「ここで役割を見つけられ、成長させてもらっている。30代としていいキャリアを積めている」と充実した様子だ。
後藤さんにとって尾道は、「ちょうどいいサイズ感」のようだ。もともとイベント運営などは好きだったが、大手のイベント会社や広告代理店で働くイメージは湧かなかった。尾道に来た今は、こう思う。「自分の得意なスケールは、手のひらに収まるサイズ。一人ひとりの参加者の顔が見えて、反応がすぐに返ってくる距離感。それが尾道にあった」と。
古くから港町として栄えた尾道。海運で富を得た商人たちが行き交い、異文化を受け入れながら独自の歴史を築いてきた。後藤さんのような移住者を歓迎し、さらに多様な人がつながり合って新しい文化が生まれていく。尾道には、歴史的にそういう外部に開かれた寛容な空気が流れているのだろう。
海を眺めながら、
尾道の未来を語り合う
後藤さんが今描いている理想のキャリア。それは、フリーランスのコンシェルジュになることだ。「尾道をベースに、全国のシェアオフィスを巡りながらそれぞれの地域で人のつながりや交流を生み出していきたい」と考えている。
ONOMICHI SHAREでは今日も、市民やクリエイターたちが混ざり合い、海を眺めながら尾道の未来を語り合っていることだろう。