商店街でラーメン、
市民と井戸端会議
平日正午、ランチに繰り出すサラリーマンたちで賑わう商店街。その一角にあるラーメン屋に、平谷市長の姿があった。「ここにはよく来るんだよね」。そう言いながら、いつものようにお気に入りのラーメンを注文する。
「ごちそうさまでした」。そう言って店を出ると、今度は商店街を練り歩いていく。カフェ、雑貨店、パン屋。 何代も続く老舗に加え、UIターンした若者が開いたオシャレな店もたくさんある。
「昼は毎日のようにこのあたりを歩いてるから、どこにどんな店がオープンしたか、おそらく私が一番詳しいと思うよ」と得意げに話す市長。店内を覗き込んでは「商売うまくいってる?」「お子さんが生まれたみたいだね。おめでとう」と声をかけていく。店員も笑顔で応じ、ときにはその場に座り込んで話し込むことも。
外見はスーツにネクタイでバシッと決めているが、どうやら中身は“お節介おじさん”のようだ。
生徒と向き合った教師時代。
あの頃と何も変わっていない
「政治家っぽくないでしょ」と茶目っ気たっぷりに語る市長。その原点は、教師時代にある。
市立中学の教師を長く務め、最後は教育委員会のトップにまでのぼりつめた。当時のあだ名は「シャチ」。何か問題があれば、すっ飛んで現場へ駆けつける。そんな熱血ぶりからつけられたそうだ。愛情たっぷりの指導は生徒や保護者、近隣住民から評判だったという。
生徒からの厚い信頼を物語るエピソードがある。かつての教え子たちから、今でもよく電話がかかってくるそうだ。「子供が勉強してくれない」「進学先に迷ってるんだけど、どうしたらいい?」。育児や進学の悩み相談。教師と生徒の関係は、今も変わらない。
「市長になっても、あのときの感覚と何も変わってないんだよね」。時が経っても、立場が変わっても、いつまでも現場主義、そして市民目線を貫いているのだ。
“サイクリストの聖地”に
全国から観光客を
もちろん、行政のリーダーとしての仕事もしっかりこなしている。例えば、尾道を代表する“顔”の1つになったサイクリング。尾道は、“サイクリストの聖地”と呼ばれる「瀬戸内しまなみ海道」の始終着地になっている。これを「新たな観光資源に」と積極的にPRし、サイクリストを中心に全国から観光客が集まるようになった。サイクリストや観光客が自転車で市内を駆け抜ける光景は、今や尾道の日常風景になっている。
自由な気風が、
尾道の未来をつくっていく
それでも、根底にある思いは変わらない。「尾道の人たちには、行政に頼らず自分たちで率先して『何かやろう』という気風がある。それを支えるのが、私たち行政の仕事」というのだ。
主役は市民。商店街を練り歩く姿が、それを物語っているように見える。これから尾道はどんなまちになっていくだろうか。きっと市長も想像できないような、おもしろい未来が待っているに違いない。