聖徳太子が開いたと伝わる
尾道随一の古刹
石段を登って山門をくぐる。まず目に入るのは、美しい朱塗りの本堂、そして右手に佇む多宝塔。境内では、鳩の群れがうとうとしている。
ここは真言宗泉涌寺派大本山 浄土寺。
尾道三山のひとつ、瑠璃山を背にした場所に建つ名刹で、1400年以上も前に、かの聖徳太子が開いた寺といわれている。尾道の山手側には多くの寺院があるが、616年創建と伝わる浄土寺の歴史の深さは、ほかに類を見ない。国宝である本堂と多宝塔をはじめ、文化財の宝庫でもある。
副住職として
寺務に従事する
浄土寺副住職である小林さんの1日は、日の出とともに始まる。起床して朝の勤行に励んだ後は、境内の掃除。そしてそのままジョギングに出かけることもある。山門に目を向けると、町と海が一望できる。「この景色がお気に入りなんです」と、小林さんは微笑む。
拝観や祈祷、法事などの目的で、寺には日々さまざまな人が訪れる。「人の気持ちに寄り添いたい」と、大学では心理学を修めた小林さん。傾聴や相槌といったカウンセリングの手法は、今のお勤めにも活きているという。
意気消沈した町に
皆で打ち上げた、希望の花火
生まれも育ちも尾道で、長い時間を過ごしてきた小林さんだからこそ、町への想いも強い。浄土寺は、尾道駅から歩いて25分ほどの立地にある。催し物の多い駅前や商店街が賑わう様子をうらやましく感じたこともあったが、「他力本願では叶わない」と考え、自ら企画を考えるようになった。
さらに小林さんは、尾道青年会議所の会員という顔を持つ。印象的な出来事を尋ねると、2020年に市内4か所で上げたサプライズ花火のエピソードを教えてくれた。その日は、向島での打ち上げ花火に奔走していた。全ての花火が空を彩りイベントを終えようとしたその瞬間、対岸からこちらに叫ぶ誰かの声が聞こえてきた。
「ありがとう!」今も胸に残る出来事だ。
関わった人たちの
心のよりどころでありたい
「寺院は敷居が高いと感じるかもしれません。しかし、皆さんにはこの浄土寺という空間を、もっともっと活用していってほしい」。そんな小林さんの言葉に、少し驚かされる。「ヨガでも、お茶会でも構いません。寺という非日常的な空間で、アクティビティの新しい魅力を見つけてほしい」。
小林さんが一貫して大切にしているのは、“ここ”という場所性に寄り添うことだ。一時の話題性を狙った企画ではなく、この地の愛着につながるもの。「誰かの心のよりどころでありたい」――。小林さんは、ふるさと尾道に種をまいている。