商店街に生まれた
憩いのカフェ
生口島・瀬戸田エリアにあるしおまち商店街の一角。築150年を超える古民家は2015年、カフェ&バー「汐待亭」として生まれ変わった。自転車整備やレンタサイクルのサービスも手掛けている同店は、本格的なサイクリストも気軽に立ち寄れる店として、地元の人、観光客もたびたび足を運ぶ、憩いの店となっている。
汐待亭の店先に立つのは、竹田育子さんと夫の好貴さん。ふたりは5人の子どもを育てながら、オーナーとしてこのカフェを経営している。
竹田家が生口島で暮らし始めてから丸10年が経った。カフェ経営や、瀬戸田での子育てを通じて、そして島の生活者として、育子さんは何を思うのだろうか。

夫の独立・開業を機に
瀬戸田の古民家へ移り住む
育子さんは広島市出身。大学卒業後に上京して7年ほど音楽活動を続けたが、2011年の震災で生き方を見つめ直すことにした。同じタイミングで、高校の同級生で音楽仲間だった好貴さんと結婚。すぐに子宝にも恵まれ、ふたりは広島市へ帰省することにした。
その後生口島へ移住したのは、自転車整備士を生業としていた好貴さんの独立がきっかけだった。生口島で自転車の仕事に携わった経験が縁となって、再訪の折に物件と出会い、竹田一家は瀬戸田での独立・開業を決意した。

誰もが立ち寄れるような
場所を作りたい
カフェは軌道に乗ったが、子育てをしながらの自営業は育子さんにとって、「今でも課題だらけ」だという。特に、子どもとの時間を充分にとれないことは心苦しく、なかなかその状況を脱することは難しい。
だからこそ、我が子たちが育っていく瀬戸田には思いがある。「自分の子に限らず、島の子どもたちが中学生、高校生になったときに、気軽にお茶できるようなカフェにしたい。子どもたちの毎日に、そんな楽しみができたら素敵だと思うんです」。
住民として島にどんな店があったらいいか。カフェの人間としてどんな店にしていきたいか。子どもたちの成長を見守るにつれ、汐待亭の在り方にもより一層向き合うようになっていったという。

この島は
子どもたちのふるさと
汐待亭では、自然農法で栽培された貴重なレモンを使っている。このレモン農家との縁はママ友がつなげてくれた。「子どもは誰とでも仲良くなって帰ってくるから、私も地域に溶け込みやすい。島の人とつながるきっかけは、いつも子どもがくれるんです」。瀬戸田弁で話す子どもたちを見て、あぁ、この子たちは瀬戸田の子なんだと実感する瞬間も一度ではない。
「自分も地元から出たいタイプだったので、進学や就職のタイミングで島から出る気持ちもわかります。でも“島を出ていくしか選択肢がない”なんて、さみしいじゃないですか」。
ここで生活していく選択肢が当たり前にある島になってほしい。そんな思いを胸に、育子さんは今日も子育てをしながら、汐待亭という場所を育んでいる。
